コラムの内容には、架空の話も含まれます。
くれぐれも、ご注意ください。



『竹中平蔵のレコード大賞レース』 2006年1月26日(木)

ある週の火曜日、夜8時を過ぎていたころのこと。
総務省では、当然のように仕事が続いていた。
そのとき、総務大臣秘書官が大臣室呼ばれた。
秘書官が、急行すると、竹中大臣は、デスクを離れ、応接テ ーブルの上に出前の料理を広げ、テレビを見ていた。

「大臣、お呼びでしょうか?」
「うん、どうしてた? 時間があったら、ちょっと座らないか?」
と竹中大臣は、秘書官に座るよう勧めた。
秘書官は、ソファーに腰を降ろしたが、いつものようにメモをひざの 上に置き、ペンを持って、大臣の発言を一言も漏らさないよう、顔を 見つめていた。

「いやぁ〜、これ、見てごらんよ」
と竹中大臣が指す方向にはテレビがあり、何かの番組をやっていた。
「はい、、、」
「これ、この人、知ってる?」
竹中大臣は、湯浅卓(ゆあさ・たかし)氏のことを言ってるようだっ た。
腹ごしらえの出前を食べるとき、ふとテレビを見ると、明石家さんま の「踊る!さんま御殿!!」という番組をやっていて、それに、出演し ていたのが、「20世紀西海岸で一番モテた男」をキャッチフレーズに する国際弁護士・湯浅卓だった。

「いえ、存じませんが。ただちに、お調べいたしましょうか?」
総務省なので、テレビ番組について、大臣が何か注文があるのかと考 えた秘書官は、言った。
「いやいや、いいんだ。いいんだ。」
「はぁ〜、、、」

「この人ねぇ、国際弁護士なんだそうだよ」
「はぁ〜」
「国際弁護士が、芸人のさんまに、おもちゃにされてるんだよ」
「はぁ〜。まぁ、バラエティー番組ですから、そういう趣旨かと」

竹中大臣は、箸を置いて、湯のみを持つと、背もたれに背をつけて言った。
「う〜ん、私はね、歌手のすべてがレコード大賞を目指すわけじゃない から、政治家のすべてが総理を目指すこともない、と言ったがね、、、」
「ええ」
「9月で、小泉総理が辞めて、、、。
政権から放り出されたら、どうなるんだろう、、、?
参院選挙で、自民党から、当選できるんだろうか、、、?」
「あの〜、大臣、どうかされましたか?」

「こうはなりたくないよなぁ〜、、、。
経済学者に戻っても、バラエティー番組に出て、こんないじられ方をする のは、いやだよなぁ〜、、、」
「はぁ〜、、、」
「よーし、レコード大賞、目指してみるか?!」
「はいっ?」
「いや、いいんだ。仕事に戻ってくれ」

竹中大臣は、湯のみのお茶を、おいしそうに飲みながら、
「総理もいいなぁ〜」とつぶやいた。


NIKKEI NET 風向計
竹中平蔵の「ポスト小泉」戦略  政治部 黒沼晋(1月9日)

 「身はたとえ武蔵の野辺に朽ちぬともとどめおかまし大和魂」――。 昨年11月、海外出張先のフランクフルトで滞在したホテルの一室で竹 中平蔵総務・郵政民営化担当相は小伝馬町の牢獄跡にある吉田松陰の 辞世の句をそらんじてみせた。「歴史の話をするのは珍しいな……」 と思っていたら、竹中氏が続けた。「昔は改革することは命懸けだっ たんだ。今の日本は命を失うことは絶対ない。馬鹿だと言われてはじ き出されるだけのことですよ」。

 「戦国時代に比べれば今の政局などたいしたことじゃない」と語っ たのは小泉純一郎首相だ。軽やかな口調はエコノミスト時代から変わ らないが、竹中氏が見せる内面の激しさは首相と相通じるところを感 じさせる。議員バッジをつけて1年余り。竹中氏は「政治家」になっ た。

 「これからすさまじい戦いになる。一緒に戦ってくれ」。首相から 閣僚就任を要請されたのは2001年4月。「ご一緒させて頂きます」と 応じた竹中氏はその後4年8カ月、小泉政権下でただ1人代わること なく閣僚を続けている。年末に作家の宮尾登美子氏を囲んだ時も竹中 氏は妻を伴って登場。首相との親密ぶりをみせつけた。

 竹中氏と首相の相性の良さは「分かりやすい」「ぶれない」という 二つの共通点だ。「酒を何回飲んだ、麻雀を何回やった。日本は人間 関係で物事を決めようとする。そういう決め方をしない人が小泉さん だ」。竹中氏は首相の魅力をこう解説する。目的に向かって妥協をせ ずにできる限りの最短ルートを突き進むやり方だ。

 この原則は竹中氏にも貫かれている。経済財政諮問会議の席上、与 謝野馨経済財政担当相や民間議員との考えのずれが表面化し始める一 方で、自民党本部へ足を運ぶ機会が増えていることの意味。諮問会議 を活用するよりも武部勤幹事長や中川秀直政調会長と連携し、党執行 部をてこにして動かした方が改革がよりスピーディーに進むとの判断 からだ。

 それはポスト小泉をにらんだ動きとも連動する。首相任期は残り9 カ月。自民党の武部勤幹事長は「竹中氏も有力だ」と持ち上げたが、 竹中氏にはそんな意思はないように映る。「レコード大賞がほしいと いう歌手もたくさんいるが、独自の音楽活動をしたいと思っている歌 手もいる」。口にするのは固辞する言葉ばかりだ。

 竹中氏の「ポスト小泉」戦略とは何か。1月7日の民放番組で竹中 氏は自らが総裁候補の1人とみられていることについて「意欲は全くな い。是非、候補のリストから私の名前を外して頂きたい」とまで言っ た。そして、ポスト小泉に誰がふさわしいかは「まだ言う段階ではな い。どの方がいいかを一生懸命見ている」。

 安倍晋三官房長官を武部氏や中川氏と共に押し立て、次期政権でも 経済分野のブレーンとして財務相や経済財政担当相などの重要閣僚を 目指す――。今のところ竹中氏の目指す方向性はこんなところだろう。 総務相に就任してからも、記者会見や講演では財政再建の手法や金融 政策に関して持論を展開し、日銀や財務省をけん制。「経済・財政政 策に明るい政治家」のアピールに抜かりがない。

 竹中氏には「敵」が多い。04年の参院選。「叩かれても叩かれても 改革」と街頭で叫んだのはおそらく本音だ。自民党内の抵抗勢力と目 された有力者らは先の衆院選で多くが党外に去ったが、小泉首相退陣 とともに竹中氏にも退場を期待する議員は少なくないはずだ。だから こそ竹中氏は「総裁選は、改革が進むぞ、という期待感を損ねない後 継者選びにしていくべきだ」と強調する。次期首相が「小泉改革の継 承」を掲げるのであれば、何より分かりやすいメッセージは、竹中氏 を登用することだからである。

 竹中氏と首相とのもう一つの共通点を挙げるとすれば「こだわらな い」姿勢だろう。「永田町では若手と言われるが、大学時代の同期の 多くは既にセカンドライフに入っているんだよ」と周囲にぼやく。 「勝って良し、負けて良し」と首相が郵政解散時に思ったように、竹 中氏にとっても、「はじき出されれば第二の人生に移ればいいだけ」 と思っている節がある。うがった見方をすれば「改革の継続は訴える が、ポスト狙いの物欲しそうな顔はしない」という姿勢こそが、自ら の価値を高めると計算しているのかもしれない。

 ただ、竹中氏は総務相に就いて以降、経済財政諮問会議の議論を酷 評したり、与謝野氏らと「名目成長率と長期金利」を巡って論争した り、これまでになく攻撃的になっているのも確か。自らが主導してき た経済財政政策へのこだわりは、一歩間違うと「独走・独善」批判に つながる危うさを抱える。

 そんな竹中氏にとって気になる人事があった。坂篤郎氏。内閣府政 策統括官時代に当時の竹中経財相と諮問会議の運営方法をめぐって対 立した旧大蔵省出身の官僚だ。その坂氏が4日に内閣官房副長官補 (内政担当)に就任し、首相の近くで内政全般の政策にかかわる。竹 中氏の独走を抑えるために、首相官邸サイドがあえて坂氏を起用した のでは――。竹中氏周辺からは神経質な反応が漏れてくる。小泉首相 との距離こそが生命線。その距離は9月に決まる「ポスト小泉」と竹 中氏の距離につながっている。
(C) 2006 Nihon Keizai Shimbun, Inc. All rights reserved.



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